Swingy days Enjoy! Open!! Swing!!!

サイトトップへ戻ります。
<< ゆっくり・ゆったり滋賀県の旅 | main | 夢の着地点 >>
ダブルバーガー

 

状況を把握するのにしばらく時間がかかった。

……なぜ入れない?
……なぜ体が動かない?

3月7日(金)午前10時半頃、西川はJRの扉に挟まれた。

スウィング一泊旅行、2日目。一行は滋賀県・日野町、滋賀農業公園「ブルーメの丘」へ向かっていた。

薄曇りだが、雲の隙間には青空も見えている。雨は大丈夫そうやな、雨男の自分にしては上出来や。時折空を見上げながら、西川はそんな風に考えていた。

JR雄琴駅から山科を経由し、JR近江八幡駅へ。そこから近江鉄道バスに乗り換え、現地へという予定。交通の便はお世辞にも良いとは言えず、移動にはかなりの時間がかかる。しかし綿密に計画は立てた。後はそれを着々と実行するのみである。

予定の時刻に雄琴駅からJRに乗り込み、山科駅で下車。乗り換えのホームに着くと異様に人が多い。何やら騒然としている。

嫌な予感がするな。西川は頭上のスピーカーから聞えてくるアナウンスに耳を澄ました。

どうやらどこかの踏切が故障して電車が近づいても遮断機が下りなくなってしまったらしい。そのため電車は徐行運転を余儀なくされ、ダイヤは大きく乱れてしまった。電光掲示板に示された到着時間は全く意味をなしていない。20分遅れの便。40分遅れの便。その「〜分遅れ」の表示もコロコロと変わる。

とりあえずは次の電車で野洲駅に向かい、そこから先は状況次第、電車かタクシーで移動しようということになった。苦肉の策である。

 

まあ、何とかなるやろ! 心に垂れ込めはじめた暗雲を振り払おうと、西川は辛うじて気持ちを前に向けた。

快速がやってきた。何本分かの乗客がドッとなだれ込む。西川はスウィング一同、全員が乗り込むのを見届け、車内へと足を踏み入れた。

プシュー!!

……なぜ入れない?
……なぜ体が動かない?

ん? プシュー???

あり得ない。駆け込み乗車でもないのに。順番を待っていただけなのに。西川は無情な鉄の扉に挟まれてしまっていたのだ。

まあ、しかし落ち着け。よくあることだ。……いや、よくはないな。とにかく落ち着け。そうだ、落ち着け。大の大人が左右の二の腕を扉に挟まれ、頭だけ車内につっこんで間抜けな格好をさらしているのだ。すぐに開くに決まっている。

はい、プシュー!!

………。

さあ、元気出していこう! 

プシュー!! プシュー!!

………。


んぐっ!!


冗談じゃない。プシュー! と開くどころか、左右の扉は一層体を強く締め付けてくるではないか。一体何がどうなっているんだ!?

このままもし走り出したら……。不吉な予感が頭をよぎる。めっちゃくっつかな危ないな、電柱とかあるし。最悪のシナリオに合わせた空しい防御策が頭をよぎる。

増田さんが中から西川の手を引っ張る。が、ビクともしない。何とか扉を開けようと身をよじる。やはりビクともしない。

木ノ戸が大声をあげている。

「まだ乗ってない! 早く開けろ!! 早く!!」

木ノ戸さん、こんな満員電車でおれのために大声をあげて。ありがとう、木ノ戸さん。木ノ戸の愛の叫びに胸を打たれた西川は、視線を車内へと向けた。しかし木ノ戸の姿は見当たらない。あれ? 木ノ戸さん? どこで叫んでるん?

「開けろって!」

……声が近い。

いや、近すぎる! まさか!!


うそ〜ん!!!


そう、西川は、いや、西川と木ノ戸は、ただのハンバーガーではなく、ダブルバーガーだったのだ。西川を締め付ける「左側」は木ノ戸であり、木ノ戸を締め付ける「右側」は西川だったのだ。向かい合わせなら危うく「チュー」をしてしまうところだったのだ。あぶな!!

一度に2人も。同じ扉に。隣り合わせで。すごいのか、すごくないのか。運がいいのか、悪いのか(間違いなく悪い)。

笑えない状況を俯瞰し、ほんの一瞬、頬を緩めた西川であったが一心不乱に叫び、手足をばたつかせている「左側」に負けまいと、再び激しく身をよじり、虚しく宙をかいた。

どれくらいの間そうしていたのか分からない。しかし西川にとっては、無限の時間のように思えた。
「扉を開けてください! 扉を開けてください!」ようやく異変に気づいた駅員のアナウンスがプラットホームに響く。

プシュー!!

扉が開き、車内に転がり込んだダブルバーガー。
腹が立つやら、ほっとするやら、可笑しいやら。

西川は一体どんな顔をすればいいのか分からない。木ノ戸も駅員に向かって何やら怒鳴りつけた後は、苦笑いのような表情を浮かべている。

ふと気づけば背後に響く複数の足音。

何とハンガーガーになり損ねた乗客がまだいたのだ。

どんだけ焦んねん、JR……。

あきれた西川は、安堵とともに大きな溜息をひとつついた。

木ノ戸
 

| ダブルバーガー | 19:51 | comments(0) | -
コメント
コメントする









CALENDAR
S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< July 2020 >>
SELECTED ENTRIES
CATEGORIES
ARCHIVES
RECENT COMMENT
  • ずっとずっと言いたかったこと
    kinoto (06/25)
  • ずっとずっと言いたかったこと
    あん (06/25)
  • 【追記】新型コロナウィルス感染拡大に伴う今後(4/13以降)の方針について
    kinoto (04/14)
  • 【追記】新型コロナウィルス感染拡大に伴う今後(4/13以降)の方針について
    阿部千津 (04/12)
  • フリーペーパー『Swinging Vol.27/総力特集:事務員越え』!!!
    kinoto (02/04)
  • フリーペーパー『Swinging Vol.27/総力特集:事務員越え』!!!
    oni cafe (02/04)
  • 【クソ真面目エッセイ-16】世界が芸術「的」でありますように。
    kinoto (08/01)
  • 【クソ真面目エッセイ-16】世界が芸術「的」でありますように。
    おかる (07/29)
  • 第68回プチコロリ@親キャバ in 鳥取・松崎
    Kinoto (05/10)
  • 第68回プチコロリ@親キャバ in 鳥取・松崎
    トキママこと楢崎とき (05/07)
LINKS
PROFILE