仕事終わりの送迎車内、Gさんが言う。
「もう77か〜」
いやいやいやいや。いやいやいやいや。
なんや“しみじみした感じ”出してるけど違うし。それ、2年前のデータやし。
ドライバー西川くん、丁重に訂正させていただく。
「違いますよ。79ですよ」
するとGさん、まさか! みたいな驚いた表情で言う。割と大き目の声で言う。
「79? ほな次80やんけ!! ワオ!!!」
「ワオ!!!」て…。79歳が「ワオ!!!」て…。
そうですよ。Gさん、今年でもう、80になるんですよ。「傘寿」(「傘」の略字が八と十を重ねた形になり、八十と読めることに由来)ですよ。
まだまだ長生きしてくださいね。
そうしてしばしの沈黙の後、再びGさんが口を開く。
「もう77か〜」
コラコラコラコラ。コラコラコラコラ。
なんやはじめてみたいに“しみじみした感じ”出してるけど、それついさっき終わったとこやし! 「ワオ!!!」で終わったとこやし!
…けれどGさん、ふざけているわけではないようだ。うむ、しゃあない、しゃあない。切り替えていこ。
ドライバー西川くん、再び丁重に訂正させていただく。
「(さっきも言うたけど)違いますよ。79ですよ」
さて。どんなリアクションが返って来るのか?
ちょっとドキドキする。
「79? ほな次80やんけ!!」
すごいな、おい…。鮮度120%やないか…。
あれ? でも、なんか足りんな…。鮮度は申し分ないけどなんか足りんな…。
あ! 「ワオ!!!」は? 「ワオ!!!」は言うてくれへんの?
なんで〜? え〜? なんで〜? ちゃんと「ワオ!!!」言うて〜な〜。
西川くん、しばらく待ってみるがGさんから「ワオ!!!」は出てこない。
もう、な〜んも無かったような顔をして、ちんまりと座っている。
あかん、このままではスッキリせ〜へん。ぜったい今晩眠れへん。…これはもう、…自分でやるしか、…ない。
「ワオ!!!」
Dear Mr. G。
失われた「ワオ!!!」を取り戻すため、在るべき場所に在るべきものを正しくおさめるため、あなたに代わって捨て身の勇気を見せた男の、男・西川の美しい姿を見ましたか? 見てくれましたか? え? どうなのよ???
「何がワオ!!! や」
何がて、何がじゃ!!!
もともとはアンタが!!!
木ノ戸