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母、父、超える。

昨日10月6日、愛媛でひとり暮らす母・ミユキが63歳の誕生日を迎えた。

今年も「おめでとう。」と電話をかけると、
やはり毎年のように「ありがとう。」と嬉しそうに返ってくる。
他愛の無いやり取りだが、この感じがいつまでも続いてくれればいいと思う。

ただ、今年は後に続く言葉が少し違う。


「遂にお父さんより年上になってしもて〜ん。複雑やわ〜。」


およそ8歳年上の父と結婚した母。
2004年、長い闘病生活の末に62歳で逝ってしまった父は、
夫であり、恋人であり、そしてまるで“保護者”のような存在だったと、
恥ずかしげもなく語るひとである。

声は笑っていたが、言葉どおり、それはそれは複雑な思いを抱いているに違いない。

僕も少々複雑である。
母が父の年齢を超えてしまった…ということの意味がストンと胸に落ちてこない。
ただ生きている者が年を取っただけだ。
とりたてて意味なんて無いのかも知れない。

それに母は以前から「お父さんが死んだ年までは生きたい」なんて言っていたもんだから、
僕は一瞬言葉に迷ったが「遂に姉さん女房やなあ。」と笑って返すと、「そうよ。」と母も笑っていた。

まあ、父は死んでいるわけだし、実際は「姉さん女房」も何もあったもんじゃないのであるが、
思いつきで言ってみた割には僕がこれまでずっと考え続けてきたこととどことなく繋がって、
あらためて父母という夫婦について思いが巡る。

1974年。
母はまるで“保護者”のような8歳年上の父と結婚し、
父はまるで“子ども”のような8歳年下の母と結婚した。

その時、(確か)父30歳、母22歳。

二十代の1歳1歳は確かに大きいし、ちょっと大げさだが、
ある部分では父母の間には“保護者”と“子ども”ほどの“違い”があったのかも知れない。
そしてその“違い”は母の中でいつまでも生き続け、
とりわけこれからも続いてゆく父不在の期間は尚更そうした感覚を強くしてしまうのだろう。

けれど息子である僕の思いは随分違っていて、
数年前、何かの折にその思いを実際に話した時には、母は本当に驚いた顔をしていた。

父母はまるで吉本ばななさんが描きだしそうな仲の良い理想的な夫婦だったが、
(もちろん時にはケンカもしていたし、母によると何度か“離婚”の危機?もあったらしい。)
僕は僕なりに子どもの目で、親対子ではない、夫婦としての父母を見つめ続け、
そしてその結果、小学3、4年生の頃にはこう思っていた。


恐らくお父さんはお母さんが居ないと生きてゆけないだろう。
生けてゆけるとしても、それは火が消えて煙だけが漂う蝋燭みたいな生き方だろう。

お母さんは、お父さんのことをとても好きだけれど、案外大丈夫だ。

だから、もしどちらかが先に死ぬのなら、お父さんの方がいいだろう。
そして、もし2人が止むに止まれぬ事情で離婚をするのなら、
僕は、可哀そうだからお父さんに付いて行ってあげよう。


こんなことはひょっとして誰もが知ってる世の摂理なのかも知れないが、
一応見た目上はどちらかと言えば“お父さん優位”だった家庭における、
僕の密かな、けれど確固とした認識、そして決意であったのだ。


…幸いなことに2人は離婚もせず、幼い僕の思惑どおりに(?)父が先に逝ったわけだ。

そして母は実際、現在も元気に生きている。

けれどどんなに花を愛し、小さな庭を美しく彩ろうとも、
友人とのささやかな語らいに時を忘れようとも、
韓流スターに熱く恋い焦がれようとも、
母の願いはただ一つ。


もう一度、父と会いたい。


そのことだけなんだろうと思う。


僕も今でも思うのだ。
特に最後の数年間、(父の命がそれほど長くないことは分かっていたので)
僕は意識して闘病中の父に甘え、思い残すことが無いよういろいろな話をしたが、
それでもやっぱりまだまだ話をしたい、話を聞いて欲しい、なんで居ないんだと。

男として、親子として、腹を割って、揺るぎない信頼を持って話し、伝え、
そして返される言葉を何の邪気なく、素直に聞き入れることができるのは、“あの”父だけなのだ。

“あの”父はただの1人しかいないし、もうここには居ない。

残念ながら、妻や母や、友人たち、他の誰かには決して替えられないこと。
そうしたことがあることに今さらながら思いを馳せる。

じゃあ、母の想いは一体いかほどのものであろう…。


母、父、超える。


僕らは落ち着かぬ浮遊感にしばらく身を任せるしかないが、救いはやっぱり父。

「ああ、そうか。」とただ可笑しそうに笑っている。


木ノ戸

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