できれば持病なんて持ちたくないものだ。でもそうなってしまったなら、まあ一般的には病院に通うしかないのだろう。
そして医者の言うことがよく分からなかったり不安だったら、誰かについてきてもらえばいい。
寒い寒い1月のある日。スウィングから徒歩1分、頼れる協力医療機関でもある「上賀茂診療所」の待合室にいたのは、ある持病を抱えるスナイパー・ゴルゴ、そして彼のサポートのため同行した西川だ。
イスをひとつ飛ばしで並んで順番を待っていると程なく採血に呼ばれ、ベテラン看護師の見事な腕によってチュチュチュと血が吸い上げられる。さらに間髪を入れず今度は診察室から声がかかり、主治医の丁寧な診察を受ける。
コロナ禍の今、小さな診療所の受診システムも工夫されていて、ストレスなく、スムーズに事が運んでゆく。
そうして30分足らずで何もかもを終わらせ並んで歩く道すがら、西川はゴルゴにこう尋ねる。いや、スウィングに到着する迄のわずかな時間のうちに「尋ねずにはいられなかった」というのが正直なところだ。
「で、どっちが良かったん?」
ふいに投げ掛けられた言葉にギョッ!!! としたような表情を浮かべて西川を見つめるゴルゴ。
その顔にはハッキリとこう書いてある。
……なぜオレの心が分かった? ……お前は超能力者なのか??
んなわけはない。西川は救いがたく暗い性格だが、それは超能力とは全く関係がない。
想定外の事態に驚いているようだけれど、それは待合室で順番を待つ間に、あんたが若い受付の女性と若い患者さんを(小さく交互に)指差しながら、「ええなあ、こっちもええなあ」と思い切り声に出して呟いてたからやないか。
セクハラ、ジェンダー、フェミニズム。さすがのゴルゴも現代社会のスタンダードに合わせるべく、不埒な思いを心の内に留めておこうと努力はしたようだが、その努力はほぼほぼ、ほぼ実を結ぶことなく、ほぼほぼ、ほぼ白日の元に曝されていたのだ。いや、むしろそんな、できれば誰にも知られたくないであろう心の奥底の邪悪な声を、「指差し確認」まで交えてダダモレにしてしまう男のほうが超能力者に近い。
若い受付の女性か、患者の女性か。そんな下品な二択の答えを聞くのは気が引けるが、でも確かめずにはいられないのは、オレもまた不埒な男のひとりに過ぎないからなのだろうか。
しかしながら次の瞬間、西川は超一流スナイパーが超一流たる所以をまざまざと見せつけられ、ひれ伏すことになる。
世界を股にかける殺し屋は、心を見透かされたダメージから秒で立ち直り、鋭く西川の眼を見据えこう言ったのだ。
「血ー抜いてくれた人」
三択やったんかい!!!
ほんでバリバリのおばさんやったやないか!!!
スナイパーの本当の狙いが自分自身の偏見であることに気づいた男が、しばし呆然とするしかなかったのは言うまでもない。
木ノ戸昌幸
★お知らせ/視察・見学について★
・スウィングの見学日は毎月第3水曜日と第4金曜日となります。
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2019.03.04 Monday
見学日を月2回(毎月第3水・第4金)とさせていただきます。
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