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【揺れるシセツチョー】その男、沼田亮平につき

沼タンク/Q/2016

 

以前の職場で共に職場改革を目指した同士であり、またスウィング立ち上げメンバーのひとりでもある沼田亮平。けれど二〇〇六年、殆ど資金的な裏付けなくはじめたスウィングに彼を雇う余裕はなく−当時、僕の“月給”は千円を下回っていた−、沼田は時間を見つけてはスウィングに顔を出し、いつ来るとも分からないスウィングで働ける日を夢見ていたのだった。

そんな沼田がスウィングで働きはじめたのは二〇〇七年四月、スウィング設立二年目の年からである−運良く、あるいは努力の甲斐あって補助金交付が決まったのだ−。割合に早いタイミングで沼田を迎え入れることができ、「また一歩前に進んだなあ」と感慨に浸ったのは束の間、僕はひとつの事実を痛烈に突き付けられることになる。それは沼田の極端なまでの不器用さである。え? こんなにも口下手で、こんなにも仕事の要領が悪い男だったの? ほんで何でいっつもバタバタパニくってんの? 以前の職場では職場自体の環境が余りにも酷すぎて個々の力に目を向ける暇などなかったし、僕もスウィングも当然今よりずっと若く、いろいろな意味で余裕がなかったこともあるだろう。けれどひとりの力が大きく物言う小さな職場において、この不器用な四六時中パニクり男を一体どう活かしてゆけばいいのか。沼田のことばかり考え、眠れぬ夜を何度過ごしたことだろう。口を開けば沼田の愚痴しか出ない酒を何度飲んだことだろう。もちろん当の沼田本人も(眠れなかったことはないらしいが)深く悩んだ。出来ない自分に真摯に向き合い苛立ち、笑いの絶えない日々の中にあっても、基本的には拭いきれない不全感を身にまとい続ける苦しい日々を送った(はずだ)。

その一方で沼田はスウィングの誰からも愛された。笑顔のQ氏に常にボコボコにされていたり、誰しもが持つやり場のない感情をぶつけられる「壁」(悪く言えば「的」)になったり、不必要に慌てふためく様子をたくさんの笑顔で見つめられたり(はっきり言えば笑われていたり)、沼田本人にとっては少々分かりにくいものだったかもしれないが、とにかく皆に愛され続けてきたことは疑いようがない。しかしながら愛されるだけでは仕事も組織も上手く回らない。僕は注意深く沼田を見つめながら、時間をかけてスウィングの仕事と沼田の仕事が重なる部分を探し続けた。スウィングには子どもと関わる場面が多いが、そういう時の沼田はいつも本当に楽しそうな表情を浮かべている。毎年、秋に必ず見せるジェスチャーゲーム(わく星学校運動会、お決まりのプログラム)での演技力には光るものがある。あるいは時と場合を問わず、追いこまれた時に見せる瞬発力にはたくさんの人を笑わせる力がある。そうして少しずつ、ワークショップやゴミブルーや寸劇等、子どもを楽しませる仕事を担当してゆくようになった沼田は、その本領を眩いばかりに発揮しはじめ、文字通りスウィングになくてはならない存在となったのである。…にも関わらず、当の沼田は相も変わらず眉間に皺寄せ、難しい顔をし続けているではないか。一体どうして?

そう、沼田は自分の出来ることには目を向けず、出来ないことが出来るようになることをいつまでも追い求めているのだ。確かに出来ないことを出来るようになりたいという気持ちや心意気は大切だと思うが、そもそもこの社会に蔓延し、恐らく多くの人を苦しめている出来ることは=良いこと(素晴らしいこと)、出来ないこと=悪いこと(ダメなこと)といった価値観って一体何なのだろう。ホント何これ? 教育? マジで意味分かんない。出来ることはただ出来るだけ、出来ないことはただ出来ないだけ、良い悪いでもないし、それ以上でも以下でもない、これじゃいけないんだろうか?

 

ええ加減「“まともに”出来るようになりたい」を捨てて、自分自身の“らしさ”に賭ける勇気を持て。

 

これはつい最近、僕が沼田に投げかけた言葉だ。出来ないことはもうさっさと諦めて、自分が出来ることを精一杯やり続けて欲しい。そしてこの諦めこそが、出来ないことが出来るようになることの出発点にもなり得るのだから。ああ、こうは言っても眉間に皺寄せ頭を抱え、悩み続けるあの姿がありありと目に浮かぶ。少し気の毒な気もするが、この泥沼のような生真面目さこそが、他ならぬ沼田“らしさ”なのだろう。

(フリーペーパー「Swinging Vol.21 総力特集:永遠のリストラ候補 沼田亮平 」より転載) 

 

文:木ノ戸昌幸(きのと・まさゆき)

NPO法人スウィング理事長。立命館大学文学部日本文学専攻卒。NPO、演劇、遺跡発掘等々の活動・職業を経て、「毎日笑えるよ」という友人の勧めで障害のある人に関わる仕事に就く。2006年にNPO法人スウィングを立ち上げ、「障害福祉」の枠を超えた創造的な取り組みを通して、社会を変えてゆきたいと願ったり願わなかったり。

 

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【クソ真面目エッセイ-12】不器用+勢い=沼田亮平

 

沼田亮平:1979年5月6日生まれ。B型、おうし座、左利き。生まれた時に看護士さんが受け取り損ね分娩台から落ちたため、しばらく高熱が続く。その影響で現在も腎臓が普通の人の半分くらいしか働いていない(今なら裁判でたくさん慰謝料をもらえていたに違いない…)。現在37歳なので、腎臓の年齢は74歳。

 

スウィングに勤めて早10年。今号の「Swinging」は「総力特集・沼田亮平」。自分ではなんのことやら…という感じであるが、とにかく総力特集である。普段口下手な分、今回はこの場を借りて出来る限り自分のことをさらけ出そうと思う。

 

先日、特集ページのために『ひとりの「ただの男」を掘り下げるということ』と題した3時間に及ぶ座談会を開催していただいた。結果どうであったか? 自分でテープ起こしをして感じたことは「コイツ(=自分)全然しゃべらんなあ…」である。いったい何をそんなに躊躇しているのか? というくらいにしゃべらない。発行部数7,000部にビビッているのか? いや違う。常に「正しい答え」を答えようとばかりしているのだ。もちろん僕が「正しい答え」を持っているわけでもないし、そもそも「正しい答え」なんて存在しない。強いて言うならば、自分への質問なのだから自分の返す言葉が正解なのだが、何かがブレーキを踏んでしゃべらせない。僕の言葉を皆が待ってくれているのに。

 

その原因を突き詰めてゆくと中学2年生の頃まで遡る。僕は当時、クラスでも明るい方だったと思う。授業中に冗談を言って笑わせることもよくあった。だが、ある日授業中に冗談を言ったクラスメイトの男の子が「おもしろくない」とクラス中からボロカスに言われ、泣いてしまった。その光景を見た日を境に、急にしゃべれなくなってしまった。恐らくこれが「他人の評価を気にする」ようになった初日である。

 

その日から“そこだけ”を見て生きる人生がはじまった。しかし、それだけにとどまらず、他人からの評価を怖れるあまり、「評価されないようにしよう」と心がけはじめた。なるべく意見を言わず、表に出ず、自分が傷つかないために息を潜めていようとした。ただ、幸か不幸か逃げることも上手く出来なかった僕は、今度はただひたすら「上手くやろう」とばかり考えるようになった。「そこがアナタの魅力ではないよ」と誰しもが気づいていたのだろうが、自分だけは気がつかず、「なんとかせねば」とひたすら自分を変えようとした。もちろん上手く出来ずに見当違いの失敗ばかりする。知らなかったのか、それとも知らないふりをしていたのか、自分が「不器用」であることを「ちゃんとせねばならない」という思いで覆い隠し、出来ない自分を否定する自己嫌悪の日々を、二十数年間に渡って送り続けた。

 

自分が目を背け、否定し続けた「不器用」こそが強みであり、沼田らしさであると言われ続けて10年目。まだまだ過去の呪縛を完全に解くことは出来ていない。しかし、スウィングで寸劇やワークショップを担当させてもらい、「人前に立つ」という自分が最も恐れていた場面を繰り返し経験してゆくことで、思いもしなかった「自分らしさ」の端っこを掴むことは出来たように思う。ガチガチに緊張し、読み込んだ台本のセリフをすっ飛ばしながらも、「勢い」だけを頼りに乗り切ってきた。それでもまだ過去の自分は「上手くやれ、上手くやれ」と耳元でささやいてくる。それこそが否定すべき自分であり、さんざん失敗してきた原因でもあるのに。

 

二十数年間の呪縛から解放される日はまだ先だと思うが、ようやくスタートラインに立つことは出来た。「器用に生きたい」「上手くやらねばならない」という自分自身にかけ続けた呪縛を解く場所がここにあること、またそんな呪縛に苦しみ悩む自分を諦めずに見守り続けてくれる人たちがいることを今一度心に刻みつつ、自分らしく、「不器用」に生きる道を進み続けたいと思う。

(フリーペーパー「Swinging Vol.21 総力特集:永遠のリストラ候補 沼田亮平 」より転載) 

 

文:沼田亮平(ぬまた・りょうへい)

1979年5月6日生まれ。大学時代はボランティアサークルに所属。地域の児童館をまわり、人形劇や工作のワークショップを行う。卒業から十数年の時を経てこれらの経験が活きることになるとは、当時の沼田は夢にも思っていない。

 

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【クソ真面目エッセイ-11】なあ、沼田くん。

 

今号の「Swinging」は沼田くんの特集だって。ちょうどよかった。聞いてほしい話があるんだよ。特集されついでに、沼田くん、ちょっと聞いてくれよ。

 

昨日まで元気だった人が、今日、亡くなってしまう。そういうことを、仕事の上で二度経験したよ。たくさんの向精神薬の副作用で、筋肉の一部が固まり足を引きずって歩いていた人の「原因不明の突然の」死。大柄な父親から、体が吹っ飛ぶほどの殴打を日常的に受けていた人の「急な」病死。原因不明?突然?多剤多量処方が、暴力が、その死に関係していないわけがないと思うのだけれど。お茶を濁されながら生きていた人たちは、その最期だってうやむやにされてしまったよ。

急に家を飛び出したり大声をあげたり食事のたびに嘔吐したりして、家族からも福祉関係者からも「無理」と言われて精神科に入院させられた人がいたよ。退院の予定のない入院は、もうすぐ五年目を迎える。二十代で、人生を丸ごと封印された人。 拘置所での生活と有罪判決を経て、地元から遠く離れた町の施設で暮らしている人がいるよ。裁判中に支援者から提示された出所後の道は、施設入所かホームレスの二択。選択の余地はないから、実質的には強制的に入所させられたわけだけれど、それでもこの人は「自分で」遠くの施設に入ることを「選んだ」と思っている。「そう思わされている」ということに、気づいていない。 なあ、沼田くん、あの人の死を、あの人の入院を、あの人の事件を、防げなかったのは、誰だと思う?あの人から目をそらし、あの人を捨て、あの人にふたをしたのは。いつも安全な場所で手をこまねき、論点をはぐらかし、自分の生活を優先させているのは。全力を尽くしていることに偽りはなくとも、そもそも力を注ぐポイントがずれている、手をつけやすいところだけを撫でているのは。その「関係」の当事者だというのに、部外者ヅラをしているのは、だーれだ?

 

「それはお前だろ」ってか。ああそうだよ。

沼田くん、それは俺だよ。

 

そんな俺に、福祉ファンタジーのテーマソングを歌うのは、やめてくれよ。利用者の思いを尊重しようって、もう言うなよ。一緒に暮らしている家族の気持ちでさえよく分かっていない、この俺に。利用者本位の支援を提供しようって、もう言うなよ。そんなに豊かな想像力は持ち合わせてはいないよ。利用者の潜在能力を引き出そうって、もう言うなよ。そんなことができるって、どれだけうぬぼれたら思えるのだろう。利用者の強みを活かそうって、もう言うなよ。お前は強みを活かしていないなんて、そんなことを言われたら、マジうざいよ。関係機関と連携しようって、もう言うなよ。いつもいつも連れションばかり勧めるなよ。天気のいい日は一人で立ちションさせてくれ。すべては計画書に沿ってって、もう言うなよ。その紙っぺらに書かれているのは、茶番劇のシナリオじゃないかよ。

なあ、沼田くん。うぬぼれと勘違いと嘘と自己欺瞞のアンサンブルを、超ファックな福祉ファンタジーのテーマソングを聞いているうちに、「エンパワメント〜♬か〜ら〜の〜ストレングスモデル〜♬」なんつって、いつの間にか口ずさんでしまっている、ゲスの極みの乙女座のおっさんは、だーれだ?

 

「それはお前だろ」ってか。ああそうだよ。

沼田くん、それは俺だよ。

 

なあ、沼田くん。支援員とかヘルパーとかいう立場の我々に、できることがあるとすれば、それは何なのだろう。我々がなすべきことは、何なのだろう。我々はどこに向かえばよいのだろう。いや、違うよ。答えがほしいとは思っていない。知っているよ。こういう問いに解はない。でもすでに、我々は何かができていて、何かを期待されていて、どこかに向かって歩き出してしまっている。正しいのかどうか分からないままに、よく分からないままにそうなっているということの気持ち悪さ、しっくりこない感じを、沼田くんと確認し合いたいんだよ。

なあ、どのぐらい気持ち悪い?ナマズを枕にして寝るぐらい気持ち悪い?

何をしてもしなくても、歩こうが立ちどまろうが、いつもしっくりこないだろ。

なあ、沼田くん。どのぐらいしっくりきていない?ナマズをどうしたときぐらい、しっくりきていない?

(フリーペーパー「Swinging Vol.21 総力特集:永遠のリストラ候補 沼田亮平 」より転載) 

 

文:駒田健一(こまた・けんいち)

2010年12月に株式会社Straightを設立。ヘルパー派遣事業所「ストレイト・コンサルティング」、ショートステイ事業所「ストレイト・フローネル」管理者。食べてみたいものはオオサンショウウオ。京都市在住。

 

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| フリーペーパー「Swinging」掲載! | 13:25 | comments(0) | trackbacks(0)
【座談会】ひとりの、ただの男を、掘り下げるということ

 

「永遠のリストラ候補」と呼ばれながら、スウィングで唯一無二の輝きを放ち続ける男がいる。その男、沼田亮平。ひとりの、ただの男。このただの男に徹底して向き合うことで、そして沼田自身が徹底して自分に向き合うことで、見えてくるものはあるのかないのか? そこに普遍性はあるのかないのか? …やってみないと分からないからとにかくやってみようぜ!

 

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プレッシャーの源

木ノ戸:「Swinging」のことをちょっと振り返るとね、18号、19号と結構お金もかけて一生懸命「障害者アート」を特集しました。で、前号(特集:「軽度」の「障害者」と呼ばれて。)のは割と気楽にやったんですよね。でも、今まででいちばん反響があった。具体的には会員がめちゃくちゃ増えたり。で、今回の特集が「沼田亮平」。どう転ぶかわからへん(笑)。沼田君、全然プレッシャー感じてないって言ってたけど、今はバリバリ感じてるの?

沼田:そうっすね。

全員:(笑)

木ノ戸:何に対してのプレッシャー? 全国に7,000部配られるっていうことに対して?

沼田:何ていうか…内容…。この数時間でちゃんとものになるだけのことを喋れるかっていう…。

西川:真面目やなぁ。

木ノ戸:内容? 7,000部配られるのは別に気にならんのやろ?

増田:あんまり気にしないんすか? そういうの。

沼田:内容です、だから。

木ノ戸:マジで⁉ 特集「西川雅哉」、嫌やろ?

西川:絶対嫌です。7,000部全部回収に行くわ。

全員:(笑)

亀井:そこじゃないってことですか?

沼田:実際に7,000部言うても、直接その相手が見えるわけじゃないっていうか。

木ノ戸:沼田君からは見えなくても、相手からはめっちゃ見られんで。

沼田:それは全然。

亀井:7,000って、ねぇ…。

木ノ戸:じゃ、フリーペーパーじゃなかったら? お金出して買われるとしたら?

沼田:あ、でも別にそこじゃなくて、やっぱり中身が。この数時間でちゃんと読んでもらえるだけのもんが出せるかって、そこだけです、僕は。

木ノ戸:そうなん? 狂っとんなぁ(笑)。

全員:(笑)

 

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パニクリスト(=テンパリスト)沼田亮平

木ノ戸:沼田君、ド凹みしたん、あれ、いつやったっけ?

沼田:一昨日です。

木ノ戸:あそこまでのは見たことなかったな。あんなに人前で凹んだ沼田君。

沼田:凹んだというか。え〜と、自分らしさの話ですよね、だから…。

木ノ戸:おれも西川君もね、いっしょに遅くまでね…。沼田君は自分らしさに悩んでんねん。増田さん、沼田君の「らしさ」ってなんやと思います? もう12、3年の付き合いでしょう?

沼田:長いっすねぇ。

木ノ戸:増田さんが休んでた日以外はずっと会ってるんですよ。

全員:(笑)

増田:そうですね、休みがち[1]だったんで(笑)。沼田さんらしさねぇ、何なんすかねぇ。なんかこうテンパってるわけじゃないんですけど、そういう風に見えるっていうか…。

 

[1]最盛期の増田は出勤率3割を誇る(つまり7割欠勤)。

 

木ノ戸:テンパってるわけじゃない? テンパってるんですよ。

全員:(笑)

増田:テンパってるんだと思うんですけどね。だから仕事に関しても何にしても頭がパンパンになってね、沼田さんの場合は。本性というか、本当の沼田さんをオブラートで包んでるように感じるんすよ。

木ノ戸:オブラートに包んだら、あんなに露骨にパニクりますかね?

増田:とったらパニクりどころじゃないと思いますよ。

亀井:とったら? オブラートを? 

増田:もっとひどいことになるかもしれないっすね。

沼田:でも、そうかもしれないです。

木ノ戸:えっ、何? パニクってる時もやっぱりオブラートに包まれてるんや?

沼田:包まれてます。

亀井:もっとすごいってことですか?

西川:包んでるのか…あれで。たぶん包めてへんと思うよ。包み方がちょっと…。

亀井:雑!

木ノ戸:“眉間のしわ”が合図やんな。自分では分からへん?

沼田:自分では分からないです。はい。

西川:普通パニクるところでパニクらないんですよね。この前のワークショップは台本無しのぶっつけ本番でも普通でしたよ。

木ノ戸:何でなん? 場数を踏んできたから?

沼田:いや。

木ノ戸:舞台上がったら吹っ切る感じの人なん?

沼田:あぁ、そうやと思います。

木ノ戸:かっこええなぁ! 越路吹雪[2] と一緒やん!

 

[2] 言わずと知れた日本を代表するシャンソン歌手であるが、いつも本番前には舞台袖でガタガタ震えて緊張していたという。1980年没。

 

西川:10周年パーティー[3] の司会も、はじまる前の緊張ひどかったですもんね。

 

[3] NPO法人スウィング設立10周年記念パーティー(2016年6月18日開催)。全国各地より130名を超えるご参加をいただいた。

 

沼田:はじまってしまったらしょうがないっていうか。でもやっぱり「上手いことせなあかん!」っていうのがずっとあって、そこに縛られがちというか。

木ノ戸:考え過ぎんねんなぁ…。沼田君の「らしさ」って、おれは「勢い」と「瞬発力」って言うたやん? それは分かる?

沼田:ワークショップの場とかではそうやなって分かるんですけど。日常の中でどうそれを持ってくればいいのかというか、どう位置づけたらいいのかが分かっていなくて。

木ノ戸:西川君の思う沼田君の「らしさ」は?

西川:「不器用」。

木ノ戸:「不器用」は知ってるん?

沼田:そこはもう、はい。重々分かってます。

西川:「不器用」なのに、何か器用にやろうとしてる自分も分かってる?

沼田:はい。上手いこと何とかしようって。

亀井:何とかせんとあかんのですか?

沼田:「不器用」って何ていうか、いいことじゃないですもんね、だって。

西川:高倉健は「不器用」やで。

木ノ戸:高倉健を否定すんのか? 死んだ人を悪く言うな!

沼田:高倉健を悪く言ってるわけじゃないですけど。

西川:どんななりたいん?

木ノ戸:「不器用」じゃなくなりたい?

沼田:あぁ、そうですね。

木ノ戸:マジで!? ほな、もう沼田君じゃなくなるやん。

亀井:ほんまや。

木ノ戸:器用になったら、たぶんスウィングにいられなくなると思うよ。もう、沼田じゃないって。

亀井:別人ですもんね。

木ノ戸:違う人を雇ったことになるやん(笑)。

増田:何でそんなに「不器用」が嫌なんですか?

木ノ戸:しつけ?

沼田:あぁ、そういうことじゃないですかね。

増田:しつけとか、そんなんあるんですか?

亀井:「不器用」があかんって?

沼田:そら、「不器用」はあかんって普通言うでしょ。

木ノ戸:言われたこと無い。おれ、何でもできたもん。

亀井:それでしんどかったんですよね。

木ノ戸:そやで。学校行けへんくなるくらい。

亀井:そや、そや。それでしんどいこともあるってことですよ。

沼田:それがもう、意味分かんないですよ、だから。

全員:(笑)

増田:沼田さん、今後どうしたいんですか?

木ノ戸:ず〜っと、悩んでるもんなぁ。

沼田:今後はだから「不器用」をどう活かしていくかを考えようと思ってます。…考えたらあかんのかな?

木ノ戸:「不器用」ってのはやっぱりあれやんね。強み弱みで言うと弱みの方やんね。

沼田:はい。そうやと思います。

木ノ戸:弱みの方やから力になるんやって。

沼田:あぁ、なるほど。

木ノ戸:でも、器用になりたい自分をあきらめきれへんのや(笑)?

沼田:…。

 

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「沼田-亀井ライン」の真相

木ノ戸:子供の頃も「不器用」やったん?

沼田:どうなんすかねぇ、あんまり覚えてないんですよね。

木ノ戸:平均的な子供やったって感じ?

沼田:そうやと思います。

木ノ戸:「不器用」やと思い出したのはいつ頃なん?

沼田:たぶん中学2年ぐらいまであんまり考えなかったんやと思います。で、中2ぐらいから何か上手いことしようみたいに思いはじめて。で、こうドツボにはまっていくというか。

木ノ戸:何で中2やったん? 何かきっかけがあったわけじゃないの?

増田:トラウマとかなかったんすか? 中学時代に。

沼田:あったんすかね…。何かあったんかもしれないですけど、ちょっと分かんないです。

木ノ戸:ワキ毛が生えたとかそういうやつ?

亀井:そんなんもありそう。

沼田:全然関係無いと思います。何か大勢の前で喋らないとか、授業中も当たらないようにするとか、静かにしておくというか。その頃の感じをたぶんまだ引きずってるんじゃないですかね。

増田:中2からずっと引きずってるんですか?

沼田:上手いことせなあかんみたいな…。

木ノ戸:あの〜、「沼田-亀井ライン」ってよく言うてるやろ? 沼田君は分かりやすくパニクる。でも亀ちゃんは非常に分かりにくくパニクる。でも下の子たちとかには“しっかりした亀井さん”って言われてる。

亀井:しっかりしてないのに。

木ノ戸:しっかりせなあかん病。で、実際にそういう風に見せることに成功してんねん、ある意味ね。でも、そこにしんどさがあるわけやん、きっと。「不器用」なのに器用にならなあかん沼田、しっかりしてないのにしっかりせなあかん亀井。シンクロ!

亀井:おぉ〜!

西川:ここはハイタッチせんと。

木ノ戸:「不器用」やしできひんねん(笑)。だから、これがおれが言うてる「沼田-亀井ライン」。…今、わかったん?

沼田:はい。

亀井:えぇっ!?

増田:今!?

木ノ戸:沼田君って、亀ちゃんのパニクり見えてへんの?

沼田:あんまり見えてないですね。

亀井:成功してる(笑)。わたし、沼田さんパニクってるなって見えてますよ。

木ノ戸:全世界が見えてる(笑)。

亀井:でも、なんか沼田さんがテンパってて、それ見てほっとしますね、なんか。

全員:(笑)

木ノ戸:テンパる人の気持ち、西川君分かる? テンパることってそらあるやん?

西川:はい。分かります。よくテンパってますよ、僕も。でもテンパっててもしゃあないってなるんですよね、最終。テンパってもしゃあないんで、テンパるのやめようってなるんです。

亀井:どうしてはるんですか?

西川:やめたらええねん。

亀井:えっ、違う違う。深呼吸するみたいなこと…。

木ノ戸:やめんねん。あきらめんねん。手放すねん。

亀井:えぇぇっ!?

沼田:(大きなため息)

亀井:手放したらどうなるんですか?

西川:手放して見えることもあんねん。

亀井:誰かが代わりにやってくれるってことですか?

西川:いやまぁ、そういうこともあるし。手放すことで客観視できるし、こうしたらいいんかって分かることもある。

木ノ戸:亀ちゃんがいくら力んで展覧会作ろうが、楽に展覧会作ろうが、たぶん一緒なんよ、結果は。じゃあ、何でしんどい道を選ぶんやろ? っておれには見える。

亀井:う〜ん…ベストを尽くせ! みたいな感じなんですかね?

木ノ戸:がんばればいいものができるっていう幻想やな。

沼田:あ〜、なるほど。

亀井:呪縛や!

増田:呪縛ですね。

木ノ戸:でも沼田君、テンパった時に力出すっていうのがあるからなぁ。

亀井:すごい(笑)。

木ノ戸:テンパった時はもうやるしかないんやんね?

沼田:はい。

木ノ戸:「勢い」と「瞬発力」。

西川:いったん、テンパらなだめなんやね、沼田さんは。沼田さんがテンパると周りがざわつくんですよね。

全員:(笑)

木ノ戸:周りが喜ぶ(笑)。亀ちゃんが感じた安心感のようなものをみんな感じてる。

亀井:みんな、それ見てほっとして。でも沼田さんはしんどいまま…。

増田:それもまたきついわな。

沼田:…そうですね。

 

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華麗なる職歴

木ノ戸:魚屋は楽しかったの? あれ「勢い」だけやろ?

沼田:そうですね。

木ノ戸:ほれ、適職や。

亀井:何で魚屋でバイトしようと思ったんですか?

沼田:そういう仕事をしたことなかったから。

木ノ戸:職歴は? いちばん最初は?

沼田:「地方労働委員会事務局」ですね。

木ノ戸:そんなん、どこで見つけたの?

沼田:ハローワークです。時給がよかったんで。

亀井:何でそこ辞めたんですか?

沼田:産休か育休かの代理で入ったので復帰しはって辞めました。その後、福祉施設に半年。

木ノ戸:そこはリストラやんね? 何て言われたんやっけ?

沼田:僕が直接言われたわけではないんですけど、僕より動けている人が「個体としての能力が低い」って言われてはって。僕のこともそう思ってはるんやろうなと。

亀井:別の人が言われてたことを聞いて「自分の方が低いな」って思って、それで辞めたんですか?

沼田:それが直接の原因じゃないけど…。

木ノ戸:結局、自分から辞めたん? スウィングに来るタイミングやったから?

沼田:いえ、その次が魚屋です。

木ノ戸:魚は何がいちばん売れたん?

沼田:いちばん売れたのは「ブリ」じゃないですかね、やっぱり。

木ノ戸:…「常識やろ?」みたいなニュアンスで言うのやめてくれる?

亀井:でもスーパーの魚屋って、そんな「いらっしゃーい!!」みたいな感じじゃないですよね?

木ノ戸:沼田君は言うてたんよ。革命起こしたんやんな(笑)?

沼田:いや、みんな言うてましたよ。楽しかったです。

木ノ戸:じゃあ、魚屋辞めたのはスウィングに来るってことが決まったから?

沼田:そうですね。

木ノ戸:(魚屋とスウィングを)天秤に掛けた?

沼田:いえ、掛けてないです。

亀井:何でスウィングに来ようって思ったんですか?

木ノ戸:何でっていうか一応はじめから働くことは決まっててん。スウィング設立直後で雇えないから待機状態やったんやんね。

 

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哀しき永遠

木ノ戸:で、スウィング来て10年?

沼田:10年目です。

木ノ戸:最初の頃にゴミブルー[4] とか10周年で司会するイメージはあったん(笑)?

 

[4] スウィングが展開する清掃活動「ゴミコロリ」の広報部隊、「まち美化戦隊ゴミコロレンジャー」の構成員。全員、ゴミブルー。

 

沼田:全く無かったです。自分の中に無いと思っていたもの、いちばん苦手でできないと思っていた部分ですから。増田さんもゴミブルーに最初は抵抗あったじゃないですか?

増田:はい。結構ありました。

亀井:ノリノリじゃなかったんですか?

木ノ戸:(最初にゴミブルーになった時)なかなか着替えへんねん、この2人。

亀井:えぇっ⁉

増田:そうですよ。最初は恥ずかしいっていうか、沼田さんもあったでしょ? 入ったら自分を解放できるっていう感じなんですけど。

沼田:まあ入ってみるまでは分からんっていう感じですね。

増田:今は「仕事やしがんばろう」とか「子どもらにアピールせなあかんし夢を壊したらあかん」って思ってやってます。

木ノ戸:寸劇[5] も最初の時は緊張してたけど、今は「あそこ、もっとこうできた」とかしか言わないですもんね(笑)。

 

[5] 小学校低学年男子に的を絞り込んだ寸劇、「まち美化戦隊ゴミコロレンジャー登場!!」を各地で上演中。

 

増田:そうですね。自分の演技に反省点はありますね。沼田さんは?

沼田:プラスの部分はあまり。反省ばかりですね。

亀井:プラスの部分無いんですか? 全く?

沼田:…今の自分がいいとは全然思ってないからね。

木ノ戸:「できた!」とは思わへんの?

沼田:「もっとこうしたら良かった」の方が大きいですね。

西川:あれ以上、何をしようとしてんの?

木ノ戸:フルパワーやろ? もっといけるん?

沼田:やり切ったという実感が無いというか、「ホンマにこんなんでええんか?」という感じですね。

西川:今までに達成感を感じたことってどんなこと?

沼田:う〜ん、達成感…。あんまり無いかもしれないです。覚えてないです。

木ノ戸:暗いな〜(笑)。じゃ、自分から離れてスウィング全体のこの10年はどう見える?

沼田:いろんな側面があるというか、スウィングの見え方が多彩になったと思います。

木ノ戸:そこに自分が大きく関与しているとは思わないの?

沼田:大きくとは思わないです。

亀井:けど、ワークショップとか沼田さんがおらんと上手くいかないこととかあると思うんですけど。

沼田:ワークショップは新たに見つけた自分というか、「不器用」と「勢い」が上手くはまったというか。そういう意味では手ごたえがある気がします。

木ノ戸:スウィングにとってはすごく大きいことやけどね。増田さんはこういう沼田君を見てどう思いますか?

増田:変わってないっちゃ変わってないんやけど、変わって欲しくない部分もあるし、変わって欲しいと思う部分もありますね。

木ノ戸:変わって欲しい部分を大事にしがちなんやな、沼田君は。でも、変わって欲しくない部分っていうのも分かるやろ?

沼田:そこは自分の中ではあまり良くない部分やと思ってしまってる。

全員:(ため息)

木ノ戸:良くない? 誰が決めたん?

沼田:自分が決めました。思い込んでるというか。

亀井:嫌いなところってことですか?

沼田:そうやね。あかんところ。

 

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木ノ戸:じゃ、自分の好きなところは? チャームポイント。

沼田:…無いですね。好きなところ。

全員:……。

木ノ戸:増田さんが言う、変わって欲しくない部分ってどこなんですか?

増田:ずっと“眉間のしわ”を寄せといてほしい。それが沼田さんやから。

西川:チャームポイントや!

沼田:どこがいいのかさっぱり…。

木ノ戸:ミステリアスやな(笑)。じゃ、例えばQさんとかちゃんと沼田君の悪口言うやん? あんなんの方が気持ちいいわけ?

沼田:分かりやすいです。

木ノ戸:悪口が? 悪口の方がピンとくるんや?

西川:Qさんの悪口、ピンとくる? 割とピントがズレてるけど(笑)。

沼田:「何でやねん!」とは思いますけど、「いいね、いいね」って褒められてるよりは実感があります。

西川:褒められたくない? 褒められ慣れてない?

沼田:どこを褒めてんのか…。

木ノ戸:じゃ、褒められるよりも叱られてる方が?

沼田:そら実感しますね。

木ノ戸:褒められている自分は「嫌いな自分」、叱られている自分が「好きな自分」なん?

沼田:好きではないですけど。

亀井:褒められてる自分は自分じゃないってこと?

沼田:実感が無い。

西川:重症やな…。

木ノ戸:じゃあ、スウィングで働いてきていちばんムカついたことは?

沼田:う〜ん。出てこないですね。

木ノ戸:いちばん嬉しかったことは? 心がはしゃいだこと。

沼田:南大路町[6] 地蔵盆に呼んでもらえたことですかね。

 

[6] 京都府京都市北区上賀茂南大路町。スウィングの所在地。

 

木ノ戸:何でそう思うの?

沼田:地域の人に認められた実感があったんやと思います。児童館との交流[7] を毎月できるようになったのも嬉しかったですね。

 

[7] 「京都市上賀茂児童館」の子どもたちと毎月必ず1回以上遊んでいる。スウィングにとって、とても大事なこと。

 

木ノ戸:南大路町に住んで児童館に勤めたらええやん。

全員:(笑)

木ノ戸:じゃ、今回のキャッチコピー、「永遠のリストラ候補」についてはどう思ってる?

沼田:不安ですね…。

亀井:“永遠の”やからリストラされないんじゃ?

西川:「リストラ」って言葉だけに踊らされてるな。

木ノ戸:亀ちゃんは沼田君の話に共感する部分はあるの?

亀井:「自信が無い」とかは一緒ですけど。とりあえずやってみて、出来上がったものに対しての反省はあまりないです。「いいものができた!」と思えます。

木ノ戸:そこが違うとこやな。

亀井:だから、もっと「やったー!!」とか思わはったらいいのに。

木ノ戸:そう思えた瞬間に沼田君じゃなくなる(笑)。

亀井:そうか。…えぇっ⁉ じゃ、ずっとこのままですよ? 永遠ですよ?

木ノ戸:永遠の沼田亮平や。

全員:(笑)

 

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沼田からの逆質問

木ノ戸:みんなに逆質問してみたら? 必ず下の名前で呼んでね(笑)。

沼田:自分の「らしさ」の活きる先が今のところワークショップだけ。マサヤは〜…「不器用」と「勢い」を他にどう活かしたらいいと思いますか?

西川:「不器用」とか「勢い」という言葉に囚われがちなんやと。深く考えずに、変に準備せずに。「不器用」とは? 「勢い」とは? とか考え出すとおかしくなると思う。

沼田:マサオは〜…自分を追い込こむ癖があったじゃないですか? そこが変わった実感とか乗り越えた瞬間ってあったんですか?

増田:今んとこに引っ越してからやと思います。それまでは言えなかったこともあったし、言いたいけど言えないモヤモヤを持ちながら仕事に行ってたこともあったんですよね。人からどう見られてるか気にしたり。緊張の糸をずっと張りっぱなしで、ずっとひとりで悩んでたんですよ。引っ越してからは、みんなにマンションに来てもらって嬉しい部分もあったし、そこから変わったんじゃないですかね。安心感で変われた。それで今の自分があると思います。

沼田:トモミは〜…自分がコンプレックスだと思っていることを褒められたら嬉しいですか?

亀井:自分が知らないことなら、そんな一面もあるんか〜って思います。言われてみないと分からんかったな〜とか、それでいいんやな〜とか。

沼田:僕は自分が「不器用」で「勢い」があるっていうことを知らなかったということなんやなって。知らなかったことを教えてもらったということなんですね。コンプレックスというよりも知らなかったということ。マサユキは〜…10年間ずっと僕に対して「そのままでいい」ということをいろいろな方法で伝え続けてきて、でも、まだ僕は同じところで悩み続けている。それでもあきらめずに言い続けてくれる理由ってどのへんにあるんですか?

木ノ戸:沼田君が自分のことをどう思おうが、おれは沼田君のままでいいって思ってる。だから勝手に苦しめばいいし、悩み続ければいい。沼田君をあきらめないってことは、自分をあきらめないってことと同じ。だから沼田君にメッセージを投げながら自分にもメッセージしてる。そう言い続けることしかできない。…ということで今日は何点?

沼田:良かったですか?

木ノ戸:良かったかどうかは分からん。

亀井:そこが不安やったんですね…。

西川:テープ起こし自分でするんやからええやん。話、盛れるやん。

沼田:盛り方が分かんないです。…点数は70点ですかね。

木ノ戸:…意外と高い!

 

from date:2016.12.21

(フリーペーパー「Swinging Vol.21 総力特集:永遠のリストラ候補 沼田亮平 」より転載) 

 

※ フリーペーパー「Swinging」は、スウィング賛助会員の皆さまからの会費を原資に制作・発行を行っております。→
※ 全国津々浦々「お!それウチに合うよ!置くよ!」という店舗さま等いらっしゃいましたら、スウィングまでご連絡ください!(10部〜20部程度)
※ 全国津々浦々「お!あの店に置いたらええんちゃうん?」的な情報がございましたら、スウィングまでご連絡ください! → Tel:075-712-7930 → Mail:swing.npo@gaia.eonet.ne.jp(木ノ戸)
※ 現在の配架先については(情報が古いですが)コチラをご参照ください。→
※ 次号「Swinging Vol.22」はもうちょっとだけ先! 2017年6月15日発行の予定です!

| フリーペーパー「Swinging」掲載! | 19:30 | comments(0) | trackbacks(0)
【特集】「軽度」の「障害者」と呼ばれて。

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「軽度」ってなんなのか? 「障害者」ってなんなのか? 

やっぱり、なんだか、気になる、気になる。

 

「軽度」の「知的障害者」と呼ばれる人たちがいる。軽い? 重い? 軽ければ生きやすい? 重ければ生きづらい? 「健常者」ならば毎日がハッピッピー? う〜ん、なんか…雑。僕らの町のダサいヒーロー、ゴミブルー(女子1名はちゃみブルー。で、もうひとりは完全に別枠)として蠢く「軽度」の「知的障害者」とされる4人と(一応・便宜上)「健常者」とされると2人のド本音トーク、炸裂!!!

 

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木ノ戸昌幸(きのと・まさゆき)

1977年生まれ。NPO法人スウィング理事長。組織で働けないことを自覚し、自らスウィングを立ち上げた結果、いつしか組織を作ってしまったことに戸惑う39歳。

 

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櫻本京一(さくらもと・きょういち)

1973年生まれ。2011年、20年に渡る木材店勤務を経てスウィングへ。当初「木彫りの山川豊」と呼ばれた無表情で寡黙な男は、いつしか冗談しか言えなくなっちゃった♡

 

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沼田亮平(ぬまた・りょうへい)

1979年生まれ。スウィング歴9年。某福祉系大学でがっつりガチの福祉を学んだものの、その全てを「関係なかった」とのたまう、この親不幸者!!!

 

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更田麻美(ふけた・あさみ)

1980年生まれ。通称・あちゃみ。25歳で障害者手帳を手にしたことに葛藤しつつ、「口から生まれた」メリットを生かしてしゃべりまくる、明るいおしゃべりマシーン。

 

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増田政男(ますだ・まさお)

1970年生まれ。左官屋、自衛隊、夜の街での(あり得ない)豪遊等々、さまざまな経歴(?)を持つ体年齢31歳。

 

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XL(えっくすえる)

1967年生まれ。本名・服部光男。推定15年の引きこもり生活を経て、それからいろいろ経て、木ノ戸に騙されスウィングへ。「ヒグマ」「ポップ仏」等の異名を持つ。

 

 

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ひらめき自覚と葛藤と誇り

木ノ戸:前号、前々号と「障害者アート」の特集をしてきたじゃないですか。でもそれ以前に「障害者」ってなんや? っていう気持ちがそもそもあって。しかも「軽度」ってどういうことや? と。みんなはその「軽度」の「障害者」とされてるわけですけど、そのあたりどう感じてますか?

XL:なんやろ? 分からへん。

増田:普通にしてたら僕らなんも思われへんけど、療育手帳[1]持ってたら「障害者」って。周りからそういう風に見られるんかあ…っていうのがある。

 

[1] 知的障害者に都道府県知事(または政令指定都市市長)が発行する障害者手帳

 

木ノ戸:例えばゴミブルー[2] になってる時って、僕らが福祉施設の人間であることや、「障害者」であることって、なんも関係ないじゃない? 愉快なただのダサいヒーローでしょ(笑)? 寸劇してる時もね。ゴミブルーになってる時って「障害者」であることって薄れない?

 

[2] スウィングが展開する清掃活動「ゴミコロリ」の広報部隊、「まち美化戦隊ゴミコロレンジャー」の構成員。全員、ゴミブルー。

 

更田:薄れますね(笑)。

木ノ戸:でも、素の自分の時は自分がそう思うと思わざるとに関わらず「障害者」っていうレッテルが貼られてるわけやん。それに対して悲しいとか不愉快とか怒りとか悔しいとか、そういう気持ちを持って当然やと思うんやけど。

XL:悔しくないよ。

木ノ戸:「区役所」無い?

XL:違うわ!

櫻本:XLさんは「障害者」っていう自覚あるんですか?

XL:分からへん。

増田:酒も煙草もやるし、あれしたいこれしたいって普通に思ってるし。

木ノ戸:あちゃみちゃんは(療育)手帳もらったの25歳くらいやったっけ?

更田:そうですね。IQで決められるのがすごく嫌で…。結果を聞いてすごく凹みましたよ、あの時は。

木ノ戸:今、苦しみとかはないの?

更田:苦しみねえ…いっつも悩むのが、久しぶりに会った友達に「今、何してんの?」とか聞かれたりすること。会社に勤めてるとも言えず…。

木ノ戸:なんて答えてるの?

更田:最近やったらNPO法人で働いてるとか。

木ノ戸:ええやん。合ってるやん。

更田:1回、福祉施設で働いてるって言おうとしたけど言えず…。「どんな仕事?」とか聞かれると困るし…。

木ノ戸:言ったとして、どういう反応が返ってくるの?

更田:「へえ、そうなんや〜」とかで終わる。

櫻本:それはそれでいいんじゃない? 馬鹿にしたような反応じゃなければ。

沼田:(京都市バスを利用する時に)療育手帳を使うことには抵抗あったの?

更田:交付された当初はそういう葛藤はあった。今はまあまあ…。

木ノ戸:ラッキーくらいに思えてる?

更田:うーん…。

木ノ戸:みんな「定期」って言ってるやん。魔法のラッキーアイテム(笑)。XLさんとかそうじゃないの? お金払わんでラッキーって。

XL:うん。ラッキーって思ってる。

更田:まあ、確かに。今まで普通に運賃とか払ってたのに、タダで乗れてるな〜って。ただJRとかになるとやっぱり払わなアカンからあれやけど…。

木ノ戸:払わなアカン? 払わんでええってことは「特別扱い」されてるってことやで(笑)?

更田:そうですね(笑)。

木ノ戸:でも、スウィングでずっと働いてきてどう? 世の中の役に立ってるとかそんな気持ちはある?

更田:役に立ってるなぁって思います。誇りも持ってます!

 

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ひらめき元・「木彫りの山川豊」の変貌

木ノ戸:京一さんは今の仕事のこと聞かれたらどう答えてるんですか?

櫻本:たまに前の職場の人に会うんですけど。

木ノ戸:「おお、ゴミブルー! ご活躍で!」とか言われる?

櫻本:言われませんよ(笑)!なんて言われたかは忘れたけど、引け目という感覚はなかったな。

木ノ戸:スウィングで働くことは「福祉就労」って言われてますよね。そういう風に伝えてる?

櫻本:そこまでは言ってない。まあ向こうは(福祉就労したことを)知ってるから。

木ノ戸:今、思えば(木材店勤務の)20年間しんどかったでしょ? 今は楽しいでしょ?

櫻本:前とは緊張感が違うから(笑)。

木ノ戸:スウィングに来た当時は「木彫りの山川豊」でしたもんね。表情ひとつ変えずに貝のように口をつぐんで(笑)。高倉健のひどいやつ、「重度」の高倉健ね(笑)。

更田:しゃべってた記憶が無いなぁ(笑)。

沼田:高倉健も大概無口でしたけど、それを超えるわけですから、そりゃすごいですよ(笑)。木材店時代の20年間と同じような感じでスウィングでも過ごそうと思ってたんですか?

櫻本:ええ、まあ。

木ノ戸:あれはやっぱり緊張なの? ものすごい殻に閉じこもってる感じがしましたけど。

櫻本:ゆるすぎる人たちがいたから(笑)。前の会社は完全な仕事というか、プロというか。

木ノ戸:クレンジャーズ[3] もデコバッジ作りもゴミブルーやる時もめっちゃプロ意識持ってやってるじゃないですか。

 

[3] THE CLEANGERS(ザ・クレンジャーズ)。スウィングの主要事業のひとつである清掃業務及びそのメンバーたちの名称。(ややこしいけど)「ゴミコロリ」とはまた別。

 

櫻本:業種がまた違うから。

木ノ戸:業種っていうか前の会社では仕事すること以外無かったわけじゃないですか。友達もおらず、話す相手もおらず。

櫻本:まあ、お金も。

木ノ戸:でもあれでしょ? 手元に届いたのは給与明細だけでしょ? ただの紙切れじゃないですか。

櫻本:途中から銀行振り込みになって。

更田:で、お金の下ろし方がわからなかったんですよね(笑)。

櫻本:逆にそれが良かったかも。知っていたら、たぶん今頃ボロボロ。分からなかったのが良かった。貯まったから。

木ノ戸:「分からなかったのが良かった」! …深いなあ(笑)。

櫻本:まぁねぇ(笑)。

木ノ戸:京一さんも手帳もらったのって二十歳過ぎてからですよね。木材店勤務時代は持ってなかったでしょ?

櫻本:途中からですね。

木ノ戸:「びっくりした」って言ってましたよね。

櫻本:そうですね。「まさか自分が!?」っていう。けど、まあしょうがないかなって。

木ノ戸:悲しいとか、悔しいとかいう気持ちは?

櫻本:それは無かったなぁ。びっくりはしたけど、ああ、そうなんだっていう。

木ノ戸:逆に楽になったことはありますか?

櫻本:バスですね。

木ノ戸:出た(笑)。京一さんが4年前にスウィングに来た時、スウィングに来ることには、なんの抵抗も無かったって聞いてます。唯一の心配事は「何番のバスに乗ったらスウィングに行けるのか?」(笑)。すごいですよね。普通、仕事が合うかとか人間関係が上手くいくかとか心配すると思うんですけど。

櫻本:それはバスに乗ったことが無かったから…。

木ノ戸:いや、京一さんにはそもそも自分に人間関係ができるっていう前提が無かったんだと思うんですよ。友達いなかったのって木材店の20年間だけじゃないですよね。学校時代もですよね。でも、今はもう友達もできて、面白くもない冗談ばっかり言ってるじゃないですか(笑)? あれはずっと我慢してたんですか?

櫻本:いや、そもそもそんな思考回路がなかった。

増田:前から面白かったんやって。

櫻本:いやいやいや、過去の自分とは全然違う。

木ノ戸:たぶん変わってないんですよ。もともとこういう人で、それをやっぱり出せなかったんですよ。

櫻本:いやー、違うでしょ。

木ノ戸:違うの?

櫻本:いやぁ、自分の中にこんなに面白い一面があったんやなーって。

木ノ戸:気づいたって感じ?

櫻本:気づいたっていうか…。

木ノ戸:出てきた? 知らん間に?

櫻本:そう、知らん間に。

更田:裏の京一ってもんが出てきたんですね(笑)。

木ノ戸:裏じゃないで。表の方やで。

XL:おもしろ。

木ノ戸:だからスウィングに来るまでずっと裏・京一で生きてきたんですよ。

沼田:そういうことですよ。

木ノ戸:もし今からスウィングより給料のいい、前に勤めてた木材店のようなところに勤められるとしたらどうですか? 

櫻本:たぶん壊れます。無理ですね。人間関係が、もう…。

木ノ戸:人間関係を作ってしまいましたからねえ(笑)。

 

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ひらめき気にしない人の「強さ」

木ノ戸:XLさんは? 手帳もらったのっていつ? 何歳とか分かんない?

XL:中学校入ってからかな。

木ノ戸:クラスは普通の学級? 「なかよし学級」みたいなのは?

XL:あったけどそこじゃなかった。

沼田:XLさんは中学校卒業して、左官屋さんになってすぐに辞めて、毎日ゲーセンと家との往復という、15年間の引きこもり時代に突入ですよね。その頃とスウィングとどっちがいいの?

XL:どっちも変わらへん。スウィングの方がまし。

木ノ戸:ましっ!?? …10点満点でゲーセンが1点ならスウィング何点?

XL:5点。

木ノ戸:ええくらいやね(笑)。それがこの人の強さやな、たぶん。明日スウィング無くなってもこの人平気やで。テレビあるしな(笑)

更田:じゃあ、テレビが無かったら?

XL:なんもせーへん。寝てる。

全員:(爆笑)

 

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ひらめき「弱さ」を受け入れ、さらけ出すこと

木ノ戸:増田さんも手帳もらったのって20代ですよね。

増田:そうやと思いますよ。自衛隊辞めてちょっとしてからですかね。

木ノ戸:手帳もらうことで何か変わりました? ショックでしたか?

増田:無いっすねぇ、僕は全然。バスがタダになったし、映画も安くなったし、ラッキー! ってそれぐらいです。

木ノ戸:でも、あなた「障害者」ですよって二十歳過ぎてから突然、言われたわけじゃないですか。

増田:そこはあんまり深く考えない方がいいかなと思った。疲れるだけやから。

木ノ戸:さすが人生経験が違いますね(笑)。

沼田:左官屋とか自衛隊を経験して手帳もらって「福祉就労」に行き着いた。「福祉就労」っていうのは意識しましたか?

増田:それも無かったですね。1年間、なんもせずにぼーっと家にいたから、それではアカンと思ってて。

木ノ戸:いやいや、増田さん! いっしょにスウィングはじめてからも何度も何度もお金使いこんで凹んで、しょっちゅう何ヶ月も休んでたじゃないですか(笑)。ああいう時って何を考えてたんですか?

増田:しんどいですよ。何回も繰り返してばっかりやったから、しんどかったです。

木ノ戸:そうですよね。めちゃくちゃ重いしんどさですよね。僕は「障害者」というカテゴライズにも違和感をおぼえつつ、一方で「軽度」をなめんなよ! というか、そういう思いもあるんですよ。でもやっぱりね、「重度」の人の方がどうしてもしんどいって言われがちなんですよ。

増田:そこがおかしいですよね。天秤にかけられるってわけじゃないけど、重みがあるわけじゃないし。「重度」の人は周りからかわいそうって言われてるかもしれんけど何がかわいそうなん? って思う。

木ノ戸:単純にあの人は軽い重いっていうのはおかしいですよね。

櫻本:当の本人が自覚しているかどうか?

木ノ戸:自覚できないと思いますよ。京一さんも自分の何が障害なのか分からないでしょ? でも大抵、「軽度」の「障害者」の人は悩む。まれに悩まない人もいますけどね、XLさんとか(笑)。でも悩んでないけど、この人も15年引きこもるくらいのしんどさはあったわけやからね。15年ですよ(笑)?

更田:長い(笑)。

木ノ戸:増田さんはやっぱりあれですよね。お金の失敗とか、黙って休んでしまうとか、そういう自分の弱みみたいなものを平気でさらけ出せるようになったことが大きいですよね。

増田:はい。それは、もう。楽になりましたね。

木ノ戸:へルパーさんの食材費まで金庫こじ開けて使ってたし(笑)。でも、今は違うやん? お金の管理も人に任せて、嫌なことがあって部屋に引きこもったら「鍵開けて入ってください」って、もう僕らにスペアキーを預けてしまっている(笑)。でも、そこまでが長い道のりでしたよね〜。

櫻本:増田さんの場合はせめて連絡さえ入れてくれれば…。

増田:そら、分かっとるわ、分かってんにゃ! 連絡せんとあかんことぐらい自分で分かってんにゃ!

木ノ戸:それができれば世話ないわけやん(笑)。連絡できへんくらい凹んじゃってるわけやん、パパ。そこは分かろうや。

櫻本:パパじゃないっすよ。

沼田:連絡したい気持ちは重々あるんですもんね。

木ノ戸:連絡せなあかん、連絡せなあかん思い過ぎるから逆に連絡できひんねん。

増田:そういう感じやと思います。

櫻本:そういう人なんや。

増田:そういう人よ、そういう人。

木ノ戸:お金を管理を人に任せるとか鍵を預けるとかって、誰かに迷惑かけてるとか恥ずかしいとかって思ってますか?

増田:うーん、思ってないと思いますね。全然思ってないし、ありがたいです、それは。自分でも繰り返すって分かってますから。

櫻本:いや、むしろしてもらった方が…。

木ノ戸:楽に生きていけるもんね。自分が楽に生きていった方がきっと周りの人も喜ぶんよ。やっぱり自分が元気な方が周りも楽しいに決まってるし、自分も楽しい方がいいし。そのためには内に閉じこもってしまってたら誰もハッピーじゃないというかね。みんな、増田さんみたいに自分の欠点やできないことを「無理なんや」って受け入れることができたらいいのにね。

更田:人に頼ろうって思えたらいいですね。

櫻本:難しい。割り切れるか、割り切れないか?

木ノ戸:どうかなあ。じゃあ「健常者」って言われている人に、なんの苦労もなんの苦しみもないかって言ったらそんなことないわけじゃないですか。みんな色々あるわけやん。沼田君なんてスウィングで働き出してから悩みっ放しって言ってるんやで? 悩まなかったことないって(笑)。でも、それって「障害者」だからとか「健常者」だからとかじゃないやん?

沼田:違います。

増田:違います、それは。

木ノ戸:だからスウィングは平気で弱さを見せられたり、迷惑をかけ合えるとこやと思うし、そういう社会にしたいんですよ、僕は! なあ、XL!

XL:(無視)

全員:(爆笑)

木ノ戸:そうやってね、みんなが迷惑や心配を平気で当たり前にかけ合えたら、「迷惑」とか「心配」って言葉すら無くなるじゃないかと思うんですよ。…違うかなぁ。例えばゴミブルーも今では地域の中で当たり前の存在になってるやんね。たぶんやけど(笑)。

増田:それはむっちゃなりましたね。

更田:最初は警察に通報されたりとかしましたけどね(笑)。

木ノ戸:びっくりされたりしたでしょ? それがもう当たり前になってんねん。当たり前にやってるうちに、誰も相手にしなくなるわけですよ。だから、いい意味でね、そういうことをどんどん当たり前にしていくことが大事やと思うんよね。…違うかなあ。

増田:なんでもかんでも「違うかなぁ」って(笑)。たぶん合ってますよ。

木ノ戸:まあ、それにしても全盛期の増田さんはすごい根性やったと思いますよ。出勤率3割て(笑)。野球で言うたら、まあまあええ選手やけど、働くっていう意味からしたらだいぶ低いですよね(笑)。それが今は100%ですもんね。

増田:いやいや、ありがたいことです。自分はなんも言えないです(笑)。

木ノ戸:京一さんは木材店時代、20年間無遅刻無欠勤よ? しゃべる人もおらんのに無遅刻無欠勤ですよ? もう、機械やで。ロボット。ロボ山川豊(笑)。

櫻本:ていうか、休めることがすごいよ。

木ノ戸:ね。思いますよね?

櫻本:言うちゃなんやけど、ほんとは休みたかったんよ。でも…。

木ノ戸:「ほんとは休みたかった」って、また今ええこと言うた! これで泣きよんねん、全国の読者が泣きよんねん(笑)。

 

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ひらめき「障害者」探しから「健常者」探しへ

木ノ戸:じゃあ、自分が「障害者」だとして、「軽度」だと思いますか?

櫻本:分からん。思いつかん。どっからどこまでが「重度」で、どっこらどこまでが「軽度」かが分からない。

更田:手帳は「B判定」ってなってるけど…。

沼田:誰かが決めたんでしょうけどね。

木ノ戸:みんなそうでしょ? けど二十歳を過ぎてから急に「障害者」って言われて、さらにそこに「軽度」ってつけられる。あなたの障害は軽いよって。僕はスウィングに来るまでの京一さんの人生の方が相当「重度」やと思いますけどね(笑)。

櫻本:そもそも障害ってどういう意味なんかなって。何をもって障害っていうのか? そして何をもって健常っていうのか? その区別が自分にはつかない。

木ノ戸:あのね、「障害者」探しってみんな上手なんですよ。「障害者」探しも上手やし、「障害者」を増やすのもみんな上手なわけです。でも、もう逆やと思うんやな。「健常者」探しをした方がええと思うんやな、これからは。

増・更・櫻:あぁー。

木ノ戸:「健常者」はどこにおるんや? って。でも、いないのよ。どこにも見当たらない(笑)。

櫻本:どういった人が「健常者」?

木ノ戸:常に健やかな人です。

更田:常に健やかねぇ…。

沼田:ずっーとですよ?

増田:ずっと健やか…。

木ノ戸:デューク更家とか?

全員:(爆笑)

更田:久しぶりに聞いた、その名前(笑)。

沼田:デューク更家でもそら、風邪ひいたりすることもあるでしょうし、落ちこむことも悩むこともあるでしょうし。

木ノ戸:え? あるの? モナコに住んでても? じゃ、「健常者」じゃない(笑)。

沼田:そうですね(笑)。

更田:お金持っててもねぇ…。

櫻本:何が健やかなんかね? もう、分からへん。

木ノ戸:だから「健常者」探しをしたらいいと思うんですよね。ほな、みんな気づくよ、あ、どこにもいないって(笑)。「障害者」の対義語は「健常者」やけど、「健常者」の対義語って必ずしも「障害者」じゃないと思うんですよ。そうすると「健常者」もいないでしょ、「障害者」もいないでしょ。ほな、もう、ひとりひとりでしかないんですよ…って、言いながらちょっとキレイすぎて恥ずかしい(笑)。

櫻本:じゃあ、別に「軽度」やら「重度」なんて分ける必要ないん違う? なんで分けるの?

木ノ戸:それは極端に言えば、この社会の中でいかに上手に金儲けできるか? っていうことの逆算やと思うんですよ。「軽度」とされる人はあんまり稼げない。「重度」とされる人はもっと稼げない。まあ、相当偏った考え方かもしれませんけど(笑)。でも社会の許容範囲がどんどん狭まって、その仕組みに合わない人がどんどん「障害者」にされてしまってる感じがします。そういう寂しい世の中になってるんやなあって思う。けど、美談じゃないけどね、そういう世の中だからこそ、僕らは出会えたわけじゃないですか。それはいいことですよね? なぁ、XL!

XL:(無視)

全員:(爆笑)

増田:そうですね、それは。

更田:もちろん。

木ノ戸:じゃあ、「軽度」の「障害者」って呼ばれて良かったですねえ(笑)?

増田:うーん。それはちょっとどうなんかな(笑)。

更田:スウィングに来れて良かったなって、それだけです。

木ノ戸:でも、それって「軽度」の「障害者」って言われたからでしょ?

更田:まあ、そうですけどっ!

木ノ戸:まあ、そうやな。そんなバッサリとはいけへんわな。でも、そう言い切った方が気持ちよくない?

増田:まあ、言い切らんよりも言い切った方が。たぶん、それは。

木ノ戸:いろんな葛藤はあるよね。葛藤はあると思うけど、ああ良かったって思えた方がね。

櫻本:まあ、開き直れるかな。

木ノ戸:そうですよね。だって出会えてなかったんやもん、京一さんと。なんか途中で卵工場かなんか行きかけてたけど(笑)。

全員:(爆笑)

木ノ戸:それでもやっぱり割り切れないですか?

櫻本:ん? 何が? 卵ですか?

全員:(爆笑)

木ノ戸:まぁ、単純に良かった、悪かったとは言えないですよね。だけどまあ、みんなスウィングに来て、こうやって話できたり笑い合えたりするのは最高ですよね。

更田:スウィング、最高です!

木ノ戸:よし!それじゃあ、お疲れ様でした!

 

2016年5月6日(金)の夜、スウィングにて。

(フリーペーパー「Swinging Vol.20」/特集:「軽度」の「障害者」と呼ばれて。より転載) 

 

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「弱さ」という根幹

 

ふと、気づいたのだ。あ、「弱さ」なんだと。この数ヶ月間、内省的な日々を過ごすうち、とにかくふと、この言葉が舞い降りてきたのだ。スウィングの根幹にあるもの、そして自分の根幹にあるものが、「弱さ」なのだと。戸惑う。…弱さ? …「弱さ」が根幹? 戸惑うが、同時にそれが間違いでないことも確信している。

 

スウィングにはるか君という人がいる。はるか君はスウィングに来てからの1〜2年、なかなか自分に合う仕事が見つからず、ただただ毎日、スウィングの中をウロウロ歩き回っていた。僕たちは焦った。早くはるか君に合った仕事を見つけなくてはとひたすら焦り、はるか君の「強さ」はなんだ? と、あれやこれやと試行錯誤を続けた。でも、どうしても見つけられない…。もう手詰まりになってしまったある時、ハッとこう思った。あ、はるか君に「強さ」なんて無いんじゃないかと。そんなもの、別に必要ないんじゃないかと。そうして「強さ」探しを止めた時、そこに立ち現われたのは何だったか? それは他ならぬ、はるか君のありのままの姿だった。ウルトラマイペースで、雨風が大の苦手で、上品なようでいて実は結構な毒も持っている、はるか君という存在の、唯一無二の、ありのままの姿だった。僕らは「強さ」探しに躍起になる余りに、はるか君のありのままを見つめ、認めることを忘れてしまっていたのだ(はるか君、ごめんね)。それからのはるか君の毎日が100%ハッピーになったかというとそんなことはない。はるか君はこれまで通りウロウロと歩き回り、風のように絵を描いたり描かなかったり、大嫌いな雨風を思う存分怖がったり、様々な感情の中を揺らぎながら生きている。

スウィングに増田さんという人がいる。増田さんはお金の管理がとにかく苦手で酷い浪費癖があって、ずっと長い間、数々の失敗を重ね続け、その度に何ヶ月も家に引きこもった。数年前、(ここでは書けないような)ある事件が起こったことをきっかけに、僕は増田さんに遂に提案した。何もかもオープンにしましょう、出来ないものは出来ないと諦めて、当たり前に笑って話しましょうと。そうしてずっとずっとオブラートに包まれ、腫れ物に触るように扱われてきた増田さんのお金にまつわる問題は、スウィングの誰もが当たり前に知るところとなり、「弱さ」を受け入れ、そしてスッと手放した−お金の管理を全部、人に委ねたのだ−増田さんの表情は次第に明るくなり、明るくなり、最低30%だった出勤率は100%にV字回復した。そして今、増田さんはスウィングにたくさんやって来る見学者にまで、超ド級の失敗談の数々を自慢げに話したりしている。

人のことばかりでなく、僕自身のことを書こう。僕は小学4年生の頃から「学校」への“行き辛さ”を感じ始め、14歳で鬱を発症、15歳の頃には絶望の果てに死を選ぼうとしたが、何とか生き延びた。勉強も運動もできた。通信簿には5しかなかった。友だちも多かったし、女の子にも人気があった(と思う)。それでも僕の十代は、一貫して深い「闇」に覆われていた。毎日が地獄だった。僕は「学校」というものに“過剰”に適応し、本来の自分の、ありのままの姿を殺しながら生きざるを得なかったのだと思う。僕は最近、15歳の自分によく会いに行く。よく頑張ったな、もう頑張らなくていい、弱いままでいい、そのままでいいと強くきつく抱き締めるために。

 

この世の中を生きてゆくにはもちろん「強さ」も必要だ。だが、その裏側には必ず「弱さ」がある。誰にだって、多かれ少なかれ、そして様々に。そのことに目を向けず、ひたすら「強さ」ばかりを求める社会を僕は憎む。ココルームの上田假奈代さんの言葉を借りるならば、僕たちはポップで愉快な集団のふりをして、環境美化団体のふりをして、あるいはアート団体のふりをして、その実、誰もが安心して、それぞれに弱っちろい、ありのままの自分で生きられる、そんな場所づくりを命懸けでしてきたのだと思う。

次の10年もスウィングは走り続ける。中指を突き立てて、アッカンべーをしながら戦い続ける。この先もきっと、幾多の困難が待ち受けていることだろう。けれど僕たちは恐れない。なぜなら僕たちがゆらゆら揺らすブランコ(=スウィング)を強く支えているのは、無敵の「弱さ」なのだから。

「弱さ」。それは殆ど「強さ」と同義である。

(フリーペーパーSwinging Vol.20/「揺れるシセツチョー」より転載)

文・木ノ戸昌幸(きのと・まさゆき)
NPO法人スウィング理事長。1977年生まれ・愛媛県出身。立命館大学文学部日本文学専攻卒。 NPO、演劇、祇園のスナック、遺跡発掘等々の活動・職業を経て、「毎日笑える。」という理由で知的障害のある人に関わる仕事に就く。2006年にNPO法人スウィングを立ち上げ、「障害福祉」の枠を超えた創造的な取り組みを通して、社会を変えてゆきたいと願ったり願わなかったり。黄色が好き。でも青も好き。


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【クソ真面目エッセイ-10】木村くんと百鬼丸と

 

障害者施設の活動や商品を紹介する冊子『アリヤ』の立ち上げから10年を迎えようとしている。それまで福祉とは縁もゆかりもなかった私がなぜ? という質問をよく受ける。それにはたくさんの理由があり、公と私の部分もある。“公″はさんざん答えてきたので、今回、どこにも言えなかった“私″の部分を書いてみたい。それは遙か遠い昔の話。私がいま立つ道の原風景でもある。

 

私が小学校3、4年のころ、クラスに木村くんという男の子がいた。背が小さくてやせっぽっちでちょこまかと走り回り、みんなが嫌がる仕事も進んでやるような“できた子″だった。木村くんの服はいつもどこかがほころびていた。ボタンは取れたままだったし、靴は足の指が見えるくらいに穴があいていた。昭和30年代の『三丁目の夕日』の時代だからそんな子はたくさんいたといえば、いた。けれど木村くんの“それ″は、誰の目にもひどく映った。木村くんは勉強がとても良くできた。隣の席になったことがあり、通信簿を(無理やり)見せてもらったらオール5で、ビックリした。あるとき、木村くんの両親は視覚障害者で、放課後はマッサージに行く両親の道案内をしていると知った。ときどき“できた子″の木村くんが取っ組み合いの喧嘩をしている場面に遭遇した。その理由は、なんとなくわかる気がした。

学期ごとに級長の選出がある。ひとり1票で投票をし1位が級長、2位が副級長に決まる。4年生の1学期、私は当然のことながら木村くんに投票した。しかし、あえなく落選。次はきっと、と2学期も、今度こそはと3学期も木村くんに入れた。が、しかし。木村くんは一度も級長はおろか、副級長にもなれなかった。たかが級長の選出だけれど、私には「たかが」とは思えなかった。みんなの目は何を見ているのか、さっぱりわからなかった。

 

—— きっと節穴なんだ —— そう思った。

 

ある夏の日の夕暮れ時。両親の手を引いて歩いている木村くんにばったり出会った。私は見てはいけないものを見てしまったような気がして、とっさに下を向き知らないふりして通り過ぎようとした。すれ違いざまに上目使いでチラリと見ると、木村くんがニコニコしながらぴょこんと頭を下げた。私はすごくドキンとしてその場に突っ立ったまま、3人の後姿をぼーっと眺めていた。なぜか、とても消え入りたい気持ちで泣きそうになった。その夏の日の光景は、今でも強烈に脳裏に焼き付いている。

 

手塚治虫の漫画に『どろろ』というのがある。カラダの48か所を魔物に奪われた百鬼丸が、それを取り戻すべく魔物退治に出かける物語。発行当時は障害者問題等でなかなか評価されなかったという。百鬼丸は、義眼、義手、義足等を着装し、外見だけではそれが偽物とはわからない。魔物を1匹退治するごとにひとつずつ、欠損した部分を取り戻していく。大人になってこの物語を読んだとき、あの級長選出の場面を思い出した。あの「みんなの目は節穴だ」と思った感覚。まるでそれは百鬼丸じゃないか。「ほんとうに」見える目、聞こえる耳、使える手足とは何なのか。魔物退治とは何なのか。ちなみに、この『どろろ』には戦争や差別や、本質を問われる話が散りばめられている。 これは私の勝手な解釈だけれど、手塚氏は「魔物」は自分の中に棲んでいるんだと言いたかったんじゃないかと。ここで正直に言えば、私が障害者問題に関心を持ち『アリヤ』を発行した理由は、世のため人のためとかいう、そんな立派なものじゃない。自分の中にある魔物退治をしたかっただけだ。無意識の中の魔物ほど手ごわいものはない。みんなの目は節穴だと訳知り顔をした自分は、あの夏の日、とっさに下を向くしかなかったのだから。 今もまだまだ百鬼丸よろしく魔物退治の旅の途中だけれど、あの夏の日に戻ることができるのならば、顔を上げて「こんにちは」と、木村くんに言いたいなと思う。

(フリーペーパー「Swinging Vol.20」/クソ真面目エッセイより転載)

 

文・藤野幸子(ふじの・さちこ)

フリー雑誌編集者。アリヤ出版代表。『アリヤ』発行・編集人。福岡市保健福祉局主催『ときめきプロジェクト』ディレクター(2011〜2015年)。『特定非営利活動法人 セルプセンター福岡』理事(2016年〜)。

 

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【クソ真面目エッセイ- 9】障害のある方である前に「ひと」であり「人」である。

 

僕は、大変ありがたい職についていると、つくづく思う。

何かを「つくる」ということは、とても素敵で豊な事だと感じている。

片山工房の成り立ちはさておき、毎日、何人もの「ひと」が絵やものづくりに来られている。自分の気持ちを描きたい方や、おしゃべりをして帰られる方、コンクールに向けて創作される方に、家に居る事が少ししんどいので息抜きに来られる方、本格的にアニメーションをしたいと熱心にスタッフと話し合う方に、自分の動ける身体をフルに使い、羊毛でスリッパや帽子をつくられる方など、あげたら切りがないくらいの、自分をつくられる。本当に多種多様な「つくる」が、この工房でなされている。

 

とても、生きてるんだと感じる光景が、「そこ」に、現実に存在している。 「ひと」が「つくる」=「そこ」で。

これが片山工房の姿であり、僕の職である。もう、13年が経とうとしている、当初は障害者アートという言葉すら無かったように思うのだが、毎日をおもしろおかしく過ごしていた。まさにそれは「自由」な場であり、小学生の時に図画工作をする「ワクワクな」痛快な日々だった。

ある時、コンクールに出そうという事になった。ある「ひと」が入選をした。みなが自分の事のように喜び祝杯をあげ、飲めないお酒も呑んだ。そして…その日から障害者アートがはじまった。

 

ある芸術家の方から連絡があり、創作現場を見学したいと言われた。ある新聞社から、その「ひと」の取材をしたいと言われた。ある企画の方から、どのようにこんな場ができたか、大勢の前でお話ししてほしいと言われた。それは、とてもとてもありがたく、自分の行って来た方角は悪くないと思わせてくれた。でもある時、「ひと」から、僕が遠くに行ったみたいで寂しいと言われた。 ここで筋を少し変えてお話を進めたい。片山工房で、右足だけをつかい絵を描いていた方がいた。皆がその身体的な表現も含めて、とても頑張っていると言われた事が多々あった。その方は確かに頑張ってはいたが、みなさんと同じぐらい頑張っただけに過ぎず、僕もそうだが、右手が使えなかったら左手を使うし、両手が使えなくなったら、口をつかうかもしれないぐらいの事だと思っている。そして、障害のある方が描いた作品には、たしかに観る人にとって、心が揺さぶられるものもあるが、学生の方や、子供、サラリーマンの方にお年寄り、そして主婦の方にスポーツをする方、しっかり時間を使えば、揺さぶられる「作品」をみんな持っている。

 

作品はその人そのものだと感じているからだ。

 

そう考えると、障害のある方との重要な共通点はひとつ、みな「人」だという事である。なんら差のない「人」として、ただただ、ものづくりを素直に、時には情熱的に行っているだけに過ぎず、それに関わる方々も、自分たちの持ち味を活かして、意味合いを深めているように感じている。余談だが、障害者アートはパラリンピックに…ではなく、オリンピックでも、どちらでも活用出来ると思っている。

 

僕は、障害者アートが悪いとは思っていない。一般社会的には、とても分かりやすい標語になっているように感じている。が、「人」であることに真摯に向き合う時間と姿勢が、今後、障害者アートを「アート」に変換する時を期待している。人がつくるものに、前置きは無用であってほしい。

 

そして、「障害者」から「人」へ。

 

今の時代は良かれ悪かれ、良いところに来ている、携わっている方々も、精鋭だ。

偉そうな言葉だが、「誰も悪くない」。

後は「ひと」と「人」が交差した時の、「混ざる点」がとてつもなく不思議なくらい、社会の肌が触れ合う場に溶け込んでいけば、僕の職は、全うしたことになる。それでも「差」は必ず出来るが、またみなが考え、集まればいい。

 

ん。今日も、僕の隣に「人」が居る。

(フリーペーパー「Swinging Vol.20」/クソ真面目エッセイより転載)

 

文:新川修平(しんかわ・しゅうへい)

1974年神戸市長田区生まれ。芸大中退、20歳で阪神淡路大震災を経験。葬祭業施行部勤務を経て、2003年、作業所片山工房を設立。2004年、カタヤマ・アートクラブを設立。2011年、特定非営利活動法人100年福祉会片山工房理事長に就任。

 

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危うい彼ら


今、日本人が大きく変わろうとしている。勤勉、勤労をモットーとし、国家の発展への寄与と忠誠を疑いもしなかった彼らが、経済成長神話の終わりとそれに伴う政治の失墜と失望感から、旧来の経済至上主義に捉われない個人個人の価値、幸せを追求する(あくまで日本型の)「個人主義」に着実に移行しつつあるのだ―ワシントン・ポスト記者/ゲーリー・トマソン

かつ
ては「純粋」「純朴」といった一面
的なイメージで語られていた障害者たちが、その秘められた、しかも(その障害ゆえに有する)爆発的に秀でたアート性を如何なく発揮し始めている。彼らの躍進は福祉の領域を超え、すでに美術界に鮮烈なる衝撃を与えているが、やがては社会的美意識すらも大きく変えてゆくことになるだろう―美術評論家/三田村國彦

いきなり2つの引用文からはじめてみたが、両者ともなかなか鋭いことを言う……かのように見えたら大成功なのだが、実はこの2つ、僕が丹精込めて捏造した全くの「嘘」なんである。つまりゲーリー・トマソンは1972 年に3 割3分3厘という好成績を残した、プロ野球・読売巨人軍の助っ人外国人であり、昨今の日本人の変化を評した記事も一切存在しない。同様に2つ目のテキストについても「今、こんなん誰かが言うてそうやなあ」と想像して書いた偽物であり、無論、三田村國彦なる評論家も(僕の知る限りでは)存在しない。すみません、本当に。しかし、どうだろう? 殆どの人が信じたのではないだろうか? それらしいことを、それらしい風に、それらしい肩書きの人が言えば、 サラッと鵜呑みにしてしまうこの感じ…「危うい」とは言えないだろうか?
そしてもう一点、2つの捏造文に共通して登場させた「彼ら」という言葉について。1つ目のテキストはいわば「日本人総論」である。「彼ら」には僕もあなたももちろん漏れなく含まれるわけだが、内容の真偽と共に「彼ら」と総称されてしまうことに違和感を覚えた人は、それほど多くないのではないだろうか? 恐らく「ああ確かにそうだな」か「自分は当てはまらないけれど、そういう人たちも確かにいるな」という感じ方に、概ね二分されたのではないかと想像する。けれど冷静に考えてみれば、前者はともかくとして後者の感じ方をした人は、事実とは異なることを堂々と断定的に書かれているわけであるから、違和感や戸惑い、場合によっては抗議や怒りの気持ちを持っても当然なのではないだろうか? にも関わらずそうはならないのは、日本人=「彼ら」と総称されることにある程度の「幅」があることを、僕たちが予め「共通認識」として持っているからであろう。極端な例を示すとしたら、未だに日本人に対して「侍」「忍者」のイメージを本気で持っている人がいたとしても、むしろ「まだそんなことを言っているのか」と笑い飛ばす方が常識的に違いない。
では2つ目のテキストにある「彼ら」についてはどうか? これは障害のある人によるアートの隆盛を基調として、障害者=「彼ら」と総称したものであるが、思わず「イヤイヤイヤイヤ」「ちゃうちゃうちゃうちゃう」と突っ込まずにはいられない(願わくば皆で突っ込んで欲しい)。恐らくこの反発は、テキスト中にある「純粋」「純朴」といった一面的なイメージが、障害者=「優れた芸術性を持つ人」という新たな一面的なイメージへと変換されているに過ぎないことを、僕たちが敏感に感じ取らざるを得ないからだろう。そういう人も中にはいれば、全くそうじゃない人もいる。ていうか全くそうじゃない人の方が殆どだ。にも関わらず、このように一面的に断定された障害者像が、(またも)世間一般の人々にすんなり受け入れられつつあるのではないか……僕が昨今の 「障害者アート」隆盛について最も危惧するのはこの点にある。

日本人=「彼ら」を許容した「幅」、つまり「それぞれが違ったひとりひとりの人間である」という当たり前の「共通認識」を獲得できないままに、(アートと いう文脈に限らず)障害のある人たちは「彼ら」と総称され続け、余りにも偏ったイメージが手を変え品を変えて、再生産し続けられているのだ。
危うい「彼ら」は今もあなたのすぐそばにいる。
(フリーペーパーSwinging Vol.19/揺れるシセツチョー」より転載)

文・木ノ戸昌幸(きのと・まさゆき)
NPO法人スウィング理事長。1977年生まれ・愛媛県出身。立命館大学文学部日本文学専攻卒。 NPO、演劇、祇園のスナック、遺跡発掘等々の活動・職業を経て、「毎日笑える。」という理由で知的障害のある人に関わる仕事に就く。2006年にNPO法人スウィングを立ち上げ、「障害福祉」の枠を超えた創造的な取り組みを通して、社会を変えてゆきたいと願ったり願わなかったり。黄色が好き。でも青も好き。


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いったい何が「キテる」のか、「キタ」らどうなるのか。


仕事柄いろいろなメディアに原稿を書いているが、「クソ真面目に」という今回のオファーは珍しい。できれば堅苦しいことは言いたくないが、依頼とあれば仕方がない。あまり面白みはないが、真面目な話をしてみよう。
障がい者アートが流行っているという。この特集によると「キテる」らしい。グローバルなマーケットということなら、確かにその通りだ。先頃パリで開催された「アウトサイダー・アート・フェ ア」は大盛況で、コレクターが先を争うように作品を買っていっ たという。「アウトサイダー・アート」は障がい者アートとイコールではなく、高齢者や宗教家の作品も多い。しかし同じ時期に行 われていた現代美術の見本市でも、関西の障がい者福祉施設から買い付けられた作品が3万ユーロ近い額で販売されていたので、障がい者アートも確かに人気が高まっている。これは、高騰した現代美術の市場についていけなくなったコレクターが、より安価で良質な作品を求めて流れ込んできたからだ。その意味では、確かに障がい者アートは「キテる」。
しかしここでの問題はそのことではないらしい。なぜなら、日本の福祉施設の多くは、海外に作品の販路を拡大することには消極的だ。「アール・ブリュット」の名前で日本の障がい者アートを強力にプロモーションする滋賀県も、澤田真一をはじめとする「障がい者アートのスター達」に対して、基本的には非売の路線を取っている。日本の障がい者アートは、グローバルな美術市場の中で「キテる」わけではない。国内はどうか。確かに各地で障がい者アート展覧会が開催されている。公立美術館が障がい者アートを自らの企画展として盛んに紹介するようになったのもここ5年のことだ。障がい者アートの公募展も盛んだ。自前のギャラリーを持つ福祉施設も増えた。障がい者アートが社会に露出される機会は、確かに多くなった。
しかし、それを「キテる」と表現することには、どのような意図があるのだろうか。「ちょっと奥さん!」というジェンダー的にはいささか問題がありそうな挑発的表現からも分かるように、ここには盛んな露出に対する批判的な視点がある。そして恐らく批判的 な検証が必要であることは間違いない。ただし、冷静な分析をともなわない批判は、福祉に対してもアートに対しても、著しく敬意を欠いたものになる(本誌の愛読者は、立腹せずに読み続けて欲しい)。
福祉について言えば、創作活動がこれほど多くの施設で取り組ま れるようになり、それに伴って作品が発表される機会が飛躍的に 増大したのは、先人の真摯な取り組みの結果である。障がいのある人が表現を通じて社会に参加できる機会を増やしたい、彼らの自己決定の機会を増やしたいという思いの積み重ねがなかった ら、今の状況はあり得なかった。どこかにボタンの掛け違いがあったのか、これが必然なのかは分からないが、福祉の向上のために力を尽くした人々の歴史の上での現状であることは間違いない。
アートについてはどうか。基本的には作品を面白がるのがアートだ。極端に言えば、この世界では作者のことはどうでもいい。美術 館で展示される作品のほとんどの作者は、すでに墓の下だ。作品を見ること、イメージを社会で共有することで得られる幸福(つまり社会福祉だ)が何より大事で、作者の幸福(もちろんこれも福祉だ)は二の次である。アートにアートとして関わる以上、そう腹を括らなければならない。
ここ5年ほど、ようやく美術業界は障がい者アートを社会で共有することの意義に気づき始めた。先進的な芸術家達がそのように直感してから100年かかったことになる。美術界での障がい者 アートの展示を批判するということは、その歴史を批判することであり、何よりそのアートを観たいと思って貴重な休日を使い、お金を払って展覧会を観たり、作品を買ったりする人を批判することだ。批判するにはその覚悟が必要だ。
誤解のないように付け加えると、私は批判すべきではないと言っているのではない。冷静な分析を伴う批判的検証は必要だ。それと同時に、批判そのものが社会的(プレゼンスを高めるという意 味では経済的でもある)価値を伴っているということも忘れるべきではないと思う。「ちょっと奥さん!」と茶化したり、「魂の叫びでも無欲でも孤独でもない」(私が関わった展覧会の名前だ!) と展覧会に銘打ったり、アートに特化したと看板を掲げる施設が 一方で自分たちの活動を福祉だと公言したりすることができるの は、現状に一石を投じるというスタンスが社会的、経済的価値を持つということの表れに他ならない。それを可能にしているのは、 福祉とアートにおける熱心な取り組みの歴史によって生じた現在の情況なのだ。そう思えば、この情況とこの情況に対する批判は、 実は表裏一体である。それを意識しないなら批判はただの放言にしかならない。そう肝に銘じて、誠実な批評を続けたいものだ。(フリーペーパー「Swinging Vol.19/クソ真面目エッセイ特集号Edition」より転載)

服部正(はっとり・ただし)
1967年兵庫県生まれ。甲南大学文学部准教授。兵庫県立美術館学芸員(1995 〜 2012年)、横尾忠則現代美術館学芸員(2012〜2013年)を経て、2013年4月より現職。著書『アウトサイダー・アート』(光文社新書、2003年)、『山下清と昭和の美術』(共著、名古屋大学出版会、2014年)など。


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